僕のなかの「全生園物語」(2)


僕のなかの「全生園物語」
亀井義展

マイ・ブルー・ヘヴン 私の青空

 大好きだったチーばあちゃんは目もほとんど見えず、片足がなかった。でも、いつも明るく元気で、療友(療養所の友人)たちに囲まれていました。
 ばあちゃんを車イスに乗せて、よく一緒に園内の散歩に出かけましたが、道が悪いと車イスがガタゴトします。するとチーばあちゃんが歌ってくれます。

♪田舎のバスはおんぼろ車
でこぼこ道をガタゴト走る

タイヤはつぎだらけ窓は閉まらない
それでもお客さん我慢をしてるよ

それは私が美人だから♪

『田舎のバス』 中村メイコ

 不自由舎センターには、全盲で手足の不自由な方、お年寄りが多かったので、それぞれのセンターでコーラス会や読書会を毎週おこない、僕はずっとその係をしていました。
 読書会では皆さんの読みたい本や懐かしい文芸物を選んで代読するのですが、時代物、とくに池波正太郎の『鬼平犯科帳』は人気がありました。耳も不自由な方が多かったので、僕の顔にぐーっと耳を近づけて真剣に聞いてくれます。
 コーラス会はホントに楽しかったです。
 おもに皆さんの好きな懐かしい童謡、歌謡曲などを練習し、全生園祭りなどでちょっとオシャレをして発表します。「ドナ・ドナ」も歌いましたが、一番思い出深いのは、なんといっても「マイ・ブルー・ヘヴン 私の青空」です。
 はじめの頃はなかなか苦戦しましたが、故郷や家族から遠く離れ、長年暮らしてこられた皆さんには、懐かしいような切ないような歌だったこともあり、練習にもだんだん熱が入ってきました。発表会はとても素晴らしい出来で、アンコールでもう一度歌ったほどです。こんな歌です。

♪夕暮れに あおぎ見る
輝く 青空
日が暮れて たどるは
我が家の 細道

狭いながらも楽しい我が家
愛の火影のさすところ
恋しい 家こそ
私の 青空♪

 ハンセン病資料館の2019年秋期企画展イベント「元職員が語る多磨盲人会」でも、この歌をぜひ歌いたいと思いました。本当は「新センターコーラス団」のじいちゃん、ばあちゃんたちと一緒に歌いたかったのですが、みんながいなくなってしまった今、それは叶いません。その代わり、会場に来てくれた仲間に手伝ってもらって思いを込めて歌いました。納骨堂に眠るヤスばあちゃん、コメちゃん、つるさん、まさこちゃんたちに届くように、喜んでもらえるように……。

亀井義展(かめい・よしひろ)
学生時代にフレンズ国際労働キャンプ(FIWC)主催の韓国ハンセン病快復者定着村・労働キャンプ参加。その後仙台の本屋で『倶会一処 患者が綴る全生園の70年』を手にし、当時の多磨全生園入園者自治会会長・松本馨(まつもと・かおる)氏に手紙を書く。それが縁となり1981年秋より多磨全生園で盲人会、入園者の生活介護の仕事に従事。1998年に退職後、精神保健の作業所、グループホームなどで働く。2017年、友人の紹介で救世軍自省館(清瀬市)で働くことになり、およそ20年ぶりに全生園に通うようになった。